花の芽村の冬は、とても辛いです。ほぼ数日に一度は雪が降り、時には大雪で一歩も外へ出られない日もあるくらいです。そんな日はストーブがフル稼働しています。そしてたまに一酸化中毒で診療所に運ばれる人もまれ〜にいます。しかし、昔から歌にあるとおり、こんな状況でもはしゃぎ回っている動物もいるくらいで。

(わ〜、今日も真っ白だな〜)

 家から抜け出した、茶色の長い垂れ耳が特徴のティナの愛犬コテツ。そこら中を爆走しまくり、暴れまわります。雪の上でゴロンとひっくり返るのは当たり前に、雪をザカザカ掘りまくったり、食べてみたり。

(う〜ん、冷たくて気持ちいい〜)

 と、そんな一人遊びタイムを邪魔する黒い影。

(おい、コテツ!)

 ご主人様に一方的につっかかってるけど全然相手にされていないリオン(とコテツは思っている)の飼い犬、ケルベロス。もっともコテツは長いという理由でケルと呼んでいたりします。

(何だよー、ケル。邪魔するなよー)

(オレをケルと呼ぶな!って、そうじゃなくて。なあ、オマエの飼い主、最近オレのご主人様に何かしなかったか?)

(ご主人様がケルのご主人様に?まっさかー。ご主人様はいつもどおりマイペースだよ)

(むぅ、そうか。ならいい。何かしたとか言ったら、しばらくオマエの飼い主に噛み付いてやろうかと思ったが…)

(??? ケルのご主人様、どうかしたのか?)

(最近、オレや動物への世話がおざなりなんだ。もの凄い形相で出かけては、トボトボと帰ってくる。いったい、何がやりたいんだ?)

(ボクが知るか)

 端から見ていれば、犬同士がワンワン吠えているようにしか見えませんが、これでもしっかりコミュニケーションは成立しています。が、そんな犬達の井戸端会議も唐突に終わりを告げました。

「あ、コテツ!もう、勝手に出歩くのはいいけど夕ご飯の時間には帰ってこないと駄目でしょ?」

(あれ、もうそんな時間?)

(ああ、もう夕方だぞ)

 やっぱりティナにはバウワウとしか聞こえない犬会話です。

「ケルベロスも帰らないと、リオンが心配するよ?」

(いいんだよ、どーせご主人様は夜遅くにしか帰ってこないしよ…)

 何だか、勝手にいじけています。

「じゃあねー、ケルベロス」

(ご主人様帰ってくるまでに、餓え死にするなよー)

 さり気なくヒドイことを言い、コテツはティナに抱っこされて家に帰っていきました。

 

 一人(一匹か?)残されたケルベロス。ここ最近、飼い主のリオンは帰りが遅く、うっかりすると夜ご飯抜きなんて日もありました。実際、昨日は夜ご飯をもらえなかったんです。

(…帰ろう)

 帰ったところでどうせ鶏と羊と牛しかいないが。いっそ連中に喰らいつけば…。

(駄目だー!!そんなことしたらオレがご主人様に殺されるー!!)

 必死でそんな邪な考えを振り払いながら、ケルベロスはとぼとぼと家に帰るのでした。家の扉はもちろんしまっています。しかし、ケルベロスはひょいと後ろ足だけで立ち上がり、口と前脚でノブを回してドアを開けます。鍵はかかっていません。何しろ平和な花の芽村では、鍵を掛けて外出する人はいません。いや、する人はしますがリオンやティナは犬が出歩けるように鍵を掛けていません。放し飼いは駄目だろ、というツッコミはなしです。

(…腹、減った…)

 さっきから胃が何か食べろーと激しく自己主張を繰り返していますが、リオンがいないから無理です。勝手に食べたら怒られます。

 夜遅く、午後11時を回ってやっとリオンが帰ってきました。何だかとても疲れています。微妙に視線が虚空を彷徨っています。

「今日も…、見つからなかった。早くしないと…、アイツが見つけるより先に…」

 しかも何かブツブツ言ってます。麻薬の禁断症状でもおきているのでしょうか?

 しかし、ケルベロスはそんなこと気にしつつもご飯をねだりにかかります。グイグイと服の裾に噛み付いてひっぱり、こちらに気がついたらすかさず餌入れをくわえて、尻尾をパタパタ揺らします。犬好きがみたらイチコロな、うるうるした目でリオンを見つめます。でも実は演技です。本当は、

(腹減ったんだよ、早くご飯くれよー、ご主人様。じゃなきゃ鶏食うぞー)

 なんて思っています。ご飯をもらえるならブレイクダンスでも逆立ちでも立ち回りでもしそうな勢いです。

「…ああ、ご飯か。ちょっと待ってろ…」

 ふらふらとリオンはドッグフードを棚から取り出します。何だかいつ倒れてもおかしくないような雰囲気ですが、ケルベロスは気づいていません。嬉しさのあまり、本当にクルクルとブレイクダンス(といっても寝転がってクルクル回っているだけですが)をした挙句、逆立ちしているんですから。

 

 

 翌朝、ケルベロスが起きるより早くリオンは出かけていきました。もちろん、扉に鍵はかけています。ケルベロス以下、飼っている動物達の餌箱にはキチンと餌が入れられています。

(ふあぁ〜あ…。ご主人様、もう出かけちゃったのかあ)

 寝ぼけながらケルベロス、テレビのスイッチを入れます。もちろん前脚で。なんて器用な犬なんでしょう。

「花の芽村は、今日は大雪です。むしろ吹雪です。皆様、今日は一歩も出歩いてはなりません。明日には落ち着くでしょう」

(…あー、そうなんだ。出かけちゃいけないんだ)

 寝ぼけ眼のケルベロス、まだ脳みそは稼動していません。

(…………んー、ご主人様いないなぁ)

 脳みそ稼働率10%…。

(まぁたどっかにいったんだなぁ…)

 脳みそ稼働率14%…。

(…そういえば、コテツの飼い主から綺麗な紫の石をもらってから、ご主人様の様子が変わったんだっけ)

 脳みそ稼働率27%…。

(こんな大雪の中出て行かなくてもいいのに……は?)

 脳みそ稼働率43%…。

(大雪!?な、何か外に出ちゃいけないってテレビ言ってなかった!?)

 脳みそ稼働率91%。

(な、何でこんな日に出かけるんですかぁぁぁぁ!!ごぉ主人様ぁぁぁぁ!!)

 ケルベロスの大絶叫は、花の芽村中に聞こえたとか聞こえなかったとか。

 それからケルベロスはあらん限りの手を尽くし、ドアを開けようとします。しかし、ノブは何とか回せても、鍵はどうすることも出来ません。仕方なく、ケルベロスはご主人様の帰りをずっと待ち続けます。このまま帰ってこなかったらどうしようなんて妄想まで膨らんじゃってます。でも待ちます。もしご主人様が帰ってこなかったらオレも後を追います的なことまで考えちゃってます。でも大丈夫、リオンはその日、お昼過ぎには帰ってきました。しかし、雪まみれです。一歩間違えば雪だるまな状態です。

「ふ、ふふ…。やった、やったぞ、ケルベロス…」

 そういうと、バターンと倒れこんでしまいました。困ったのはケルベロス。このままリオンを床に放置しておけば翌日高熱だして唸っているのは確実です。が、ベッドまで運ぼうにもそんなに大きくない身体、ハッキリ言って無理です。グルグル唸って考えた結果、ベッドから毛布を引きずり、リオンに掛けてあげました。せめて何にもしないよりはマシです。

 その翌日、盛大にリオンは風邪を引きました。三日は熱が引きませんでした。その間、ずーっとベッドの上です。家畜たちのお世話は必然的に(?)ケルベロスがすることになります。といってもたかが犬にできることなど餌をあげることだけですが。鶏が産んだ卵は傷つけないよう、そーっと出荷箱に入れておきましたが、羊毛を剃ったり牛の乳搾りなんて出来ません。むしろ出来たら犬じゃありませんが。

(ご主人様、一体何を頑張ってたんだ?ここまで頑張ることないだろうに…)

「ケルベロス、牛達は元気だったか?」

(牛なんかより、ご主人様自身のことを気に掛けて欲しいです。何をしてたんですか?)

「そうか、元気だったか。なら、いいや」

(だから、ご主人様。何をしていたんですか?)

「ああ、熱が引いたらまた散歩に連れて行ってやる」

 見事に会話が噛みあっていません。そりゃそうですね、人間が犬の言葉を理解するなんて無理ですね。

「…ちゃんと加工してくれているだろうな」

 

 

 四日目にやっと熱が引いて、リオンはまた外を歩き回るようになりました。家畜たちのお世話を済ませると、ケルベロスを散歩に連れて行ってくれました。ただし、いつもとかなり違う散歩コースでした。まず、鍛冶屋に寄りました。その時、ケルベロスは外で大人しく待っていましたが、店から出てきたリオンの手に、何か握られているのに気がつきました。何だろうと顔を近づけてみると、見せてくれました。それは、指輪とブローチでした。大粒の綺麗な宝石があしらわれていて、とっても高そうです。

「ダイヤモンド。一番高価な宝石だ。随分前、ティナがアメジストをくれた時に思いっきり啖呵を切って、ダイヤモンドを見つけてみせる!ってな。それ以来、ずっと探し続けたが…、苦労した。お前にも迷惑かけたな」

 ぐしゃぐしゃと頭を撫でてもらって、ケルベロスはとてもご機嫌でした。が、そんな幸せな時はやっぱり長続きしませんでした。

「あ、リオン!こんにちはー」

(げっ、ケルも一緒かよー)

 コテツと散歩していたティナが、リオンとケルベロスを見つけて近づいてきました。もちろん、コテツは長い垂れ耳をパタパタ揺らしながら走ってきます。

「風邪引いてたんだって?心配したよー」

「ふん、お前に心配されるほどボクは落ちぶれていない」

(何だ、ケルのご主人様、風邪引いてたんだ。以外だなぁ)

(ご主人様とて風邪は引く。悪いか?)

(いや、別にー。でもさ、キミのご主人様が持ってるあれって、ダイヤモンドのアクセサリーだよねえ?)

 相変わらず、犬は犬同士でバウワウ話をしています。飼い主同士は相変わらずちぐはぐな会話を続けます。

「お見舞いに行こうと思ったんだけどさ、近くに来たらケルベロスに追い返されちゃってさ。ごめんね」

「見舞いなんて来なくていい。むしろ、差を広げるチャンスだろう」

 相変わらずそっぽ向いて、お前は嫌いだモードですが視線はケルベロスを睨んでいます。具体的には、余計なことしやがってこの馬鹿!という視線です。何で飼い主から睨まれなくちゃいけないのか解らずに、尻尾を丸めてキューンとしています。

「ほら、やる。言っとくが、この間もらったアメジストの礼じゃないぞ。お前みたいな貧乏人は、一生ダイヤモンドなんて間近で見ないだろうから、情けでくれてやるんだ」

 相変わらずいらんことまで言いながら、リオンは不機嫌を装ってティナに指輪とブローチをあげました。しかし、素直に「もらったアメジストの礼だ」と言えないものでしょうか。わざわざこんなセリフ言わずとも。

(何だ何だー、ご主人様にプレゼントかー?ケルのご主人様何考えてんの?)

(む、ご主人様を侮辱するな!!お前の飼い主より(以下略)なんだぞ)

 ケルベロス、牙を剥いて唸ります。しかし。

「ケルベロス、行くぞ」

 鶴の一声ならぬリオンの一声で、ケルベロスは戦闘態勢を解いて、主人についてテコテコ歩き出しました。

(……ダイヤモンドを贈るなんて、ご主人様はコテツの飼い主に好意あるのかなぁ)

 リオンの真横を歩きながら、主人の顔を見上げてケルベロスは一人(一匹?)思います。

(もしそうだったら嫌だよ。オレ、あの人がもう一人の飼い主になるなんて耐えられないよ)

 注意散漫、前方不注意。

 ゴゥン、といい音が聞こえた。ような気がしました。ケルベロスは街路樹代わりに植えられたモラの木に顔から正面衝突する羽目になりました。目の前で星がクルクル回っています。

「ケルベロス、大丈夫か!?」

 リオンの声が遠く聞こえます。嗚呼、飼い主の恋路を邪魔したばかりに、馬に蹴られるどころか木と正面衝突することになるなんて。なんてかわいそうなことでしょう。

 

 

(ご主人様、ケルのご主人様からプレゼントもらってとても嬉しそうだわん)

 飼い主の斜め後ろを歩きながら、コテツは思う。

(でも告白もしないでいきなりプロポーズはどうかと思うぞ…)

 コテツの中では、もうそうなっていた。事実なのはリオンがダイヤモンドをティナにあげたということ。が、そこまで深い意味は無いだろう。

「リオンがプレゼントくれるなんて、珍しいこともあるもんだね、コテツ」

 とても嬉しそうな顔をしながら、さり気なくひどいことを言うティナ。

(そりゃご主人様に気があるからですよ。ボクはケルの飼い主がもう一人のご主人様になってもいいけど)

「でも、まだ深い意味はないよね。まだお互いのこと全然知らないんだよねー」

 意外と会話が成立している。ひょいとティナはコテツを抱きかかえる。いつもの自分専用の特等席に収まり、コテツは満足そう。が、はたと思う。

(もしケルのご主人様がもう一人のボクの飼い主になったら、ボクの特等席取られちゃう?)

 実際、そうなるだろう。まあ、完全に取られることはないだろうが、独り占めできなくなるのは確定だろう。

(……前言撤回。何が何でも防がないと)

 その時、コテツの目にはメラメラと炎が燃え上がっていたと言う。が、悲しいかな、所詮犬は犬。リオンとティナが仲良くなるのを防ぐことは無理に等しいだろう。いっそ諦めたほうがいいだろうが。

 犬達が飼い主同士が仲良くなるのを傍観するようになるまで、あとどれくらいかかることやら……。

 

 

 

 

 

―・―・―・―・―・―

 あとがき

 犬コンビメインでリオティナ風味な話。なのでリオティナの方で掲載していいのか、結構考えていたりします。…全然そんな雰囲気ないのになぁ。えー、次は恐らく3主とディアの話を書くだろうし、別ゲームネタも書くんで、リオティナ、次は一体いつになるかわかりません。期待しないでいてください(苦笑)